新宴なるesportsの世界

世間的にまだ認知の低いesportsについてわかりやすく、でも奥深い世界の一端を説明できればと思っています。

esportsとゲームのコミュニティとの関係

esportsとゲームコミュニティの関係

ゲームのタイトルを盛り上げる鍵として近年コミュニティの役割が注目されています。コミュニティとは、そのゲームを楽しむ人だけでなく、実況や二次創作物を楽しむ人も含めてそのゲームIPを楽しむ人全般を指します。

PCだけでなくスマホでのオンラインゲームが主流となるにしたがって、ゲームのIP保有会社だけでなくプレイヤー側からも主体的にゲームを盛り上げる活動が出てきています。これをゲームのIP保有会社が最大化してゲームの活性化を図るのがコミュニティ施策です。

 

ゲームのコミュニティの中核をなすのはそのゲームを楽しむコア層のうち、特技や労力を惜しまない人たちです。例えば、オンライン・オフラインを問わずにイベントを企画・運営する人、ゲームに関する情報をまとめて共有したり、自分のプレイや解説を配信や動画としてアップロードしたり、コスプレをしたり絵を書いてアップしたりと多様なコミュニティへの貢献者がいます。以前はこの手の活動に著作権の問題を意識してIP保有会社がサポートをすることが少なかったのですが、これらを積極的に活用してゲームを盛り上げていく事例を見るにつれ、ゲームのIP保有会社の立ち位置も変わってきています。

 

ゲームのIP保有会社のコミュニティへの関わり方は濃淡があり、コミュニティとの関係を非常に重視する会社では、自社でのコミュニティイベントやまとめサイトへの情報提供にとどまらず、プレイヤーと開発陣がTwitter掲示板(海外ではRedditが有名)で直接ゲームの現状や今後の方向性について話し合う場合もあります。また、上記にあげたコミュニティ貢献者の応援プログラムを用意しているところもあります。これにより盛り上がっている感を出してコア層の継続率の向上やライト層も引き付ける鍵としていることが多い。

 

それではこのコミュニティ支援とesportsはどう関係するのか?実はesportsはこのコア層に対してレベルの高いプレイと対戦ドラマを提供することにより、コミュニティへエネルギーを注入することができます。esportsのコンテンツに対しての批評や仲間同士での観戦(ボイスチャットをつなげてのオンライン観戦と実際に集まってオフライン観戦があります)も彼らが盛り上がる大切な要素です。また、このコミュニティに対してチーム・選手は積極的に働きかけファンの醸成を図るべきですが、実際には狭い世界での人間関係など難しさもあります。ただ、成功している事例として、チームが選手第一の方針を打ち出してコミュニティからの共感を得たり、選手が積極的にTwitterやファンとの交流会に参加して人気を高めているケースがあります。

 

気を付けなければいけないのは、esportsの運営主体はコミュニティと一線を引かなければいけないことです。どのチーム、選手にも公正であるべき運営主体であり、開催日程や場所などもギリギリまで発表できないことが多い。これらの件でコミュニティの声に反応していると情報リークや公正さが疑われるケースに発展するリスクもあります。また、どのスポーツにもつきものですが、運営・チーム・選手に不祥事が発覚することもあり、その時に迅速かつ適切な処理を行わなければいけないのです。その過程の中では当然外に出せない情報も取得することになるので、esportsの運営としてはコミュニティから一線を引くべきだと考えます。コミュニティと積極的に絡むのはあくまでも主役であるチーム・選手に任せたほうがいいと思います。

esportsを盛り上げる関係者 - その4

今回で関係者紹介としては最後となるが、esportsに欠かせない映像制作、スポンサー、メディアの紹介をしようと思います。

 

映像制作

映像制作はesportsの要と言っていい仕事です。伝統的なスポーツに比べて動きの少ないesportsの選手映像、情報量の多いゲーム画面をどうダイナミックにわかりやすく、かつ、共感を生む映像にするか、これら全てが映像制作にかかっています。

 

情報量の多いゲーム画面と書きましたが、実際にストリートファイターの画面を見てもらっても非常に情報量が多いことがわかります。下の画面で上から選手名、ゲーム取得数、体力ゲージ、残り時間、キャラクター、下に2種類のゲージのチャージ量が入っています。

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                              Copyright: Capcom

これがチーム戦のLoLであればさらに増えていきます。詳細は省きますが、下の画面でも上下左右、また右下、左下にゲーム関連の情報があります。これは初見の人にはハードルが高くなります。

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                                                                                               Copyright: OGN, Riot Games

一般的にアニメなどのコンテンツを制作する側はいかに情報を絞り込んで伝えたいことを伝えるかに腐心するので、esportsとしての映像制作がいかにチャレンジングかを理解してもらえるかと思います。ちなみに、以下はつい最近までワールドカップが行われていたサッカーの中継画面です。左上にスコアと時間があるだけのシンプルな画面です。

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                              Copyright: FIFA

 

映像制作にかかわる会社・人のモチベーションはesportsを普及させて、ビジネスにしたいという思いが大きいだろうと感じます。前回説明した大会運営と似ていますが、違いとして上記にあげた新しいチャレンジに対して向き合い解決していくことをモチベーションとしている人もいます。

 

映像制作業者・人のメリットとしては、既存のテレビ局などが経費削減などを進める中で、新しく出てきたホワイトスペースであり、新たなビジネスを獲得できることです。一方で、悩みどころとしては、ステージや人員、金銭面などの制約条件が多く、課題に対して有効な解決策を図ることが現状では難しいことです。中国や韓国などのesports先進国では専用ステージや優秀なスタッフを揃えられるようになっており、今後の日本でのesportsの発展に伴ってこれらの課題も解決される面が出てくることを望みます。

 

スポンサー

esportsの今後の発展に欠かせないのがスポンサーとなります。esportsは現状10代から20代の男性に刺さるコンテンツなので、その年代を顧客とする製品・サービスを展開している企業にとってスポンサー価値は高くなります。実際、スポンサー事例が豊富な海外を見てみると、欧米ではミレニアル(1980年代以降に生まれ、デジタルの世界に早い段階から触れている世代)へのマーケティング活動の一環としてesportsへのスポンサーなどが語られることが多い状況です。残念ながらこの層は日本では団塊ジュニア後の人口ボリュームとして多くないので、ターゲットとして重視されていないところにスポンサー獲得の難しさがあります。(いいか悪いかは別として日本で注目を浴びているのは「シニア」です)

 

スポンサーのモチベーションとしては、まさにターゲットセグメントへの格好の露出が得られることにあります。esportsが発展している国では、若者向けに象徴的な高級車(メルセデスBMW)がスポンサーとして入ってきています。一方でスポンサーの悩みとしては、まだesportsが新しく、社内での承認を取ることが非常に難しいことです。一定の金額を超えたスポンサーをする場合は会社のそれなりの機関(例えば役員会)の決済を取ることになりますが、それらの人たちにesportsを説明し、理解してもらうことは相当に難しいようです。

 

結果として、日本での今のesportsのスポンサーは主にPC・ゲーム周辺機器の会社からのスポンサーが多いです。

 

メディア

esportsのメディアには大きく分けて二種類があります。それは放送と記事です。ただし、esportsはライブコンテンツとして消費される側面が大きいので、今回は放送に特化してメディアとして説明します。

 

esportsの放送は通常WebのStreamingで行われます。世界でも一部の国や地域ではテレビ放送を行うなどの違いはありますが、大多数の国ではWeb Streamingである。Web Streamingのプラットフォームで有名なところで言うと、TwitchやYoutube Liveです。Web Streamingにはテキストで書き込めるコミュニティ機能があり、一部の視聴者はそこで視聴者参加型の体験を楽しんでいます。ただ、視聴者数が多くなってくると投稿が多くなりすぎ投稿内容を追い続けるのは不可能であり、見えないようにしてみている視聴者もそれなりに多いようです。

 

Streamingサイトがesportsに力を入れるメリットは何といっても集客効果です。esportsの放送により視聴者を集め、そのまま選手が個人配信をする場合にも視聴者をサイトにつなぎとめるという、好循環モデルが作れます。一方で、ゲームタイトルによってはesportsがなくとも個人配信者が莫大な数の視聴者を集めることもあり(FortniteのNinja)、今後の視聴行動の動向を把握する必要があります。

 

悩みどころとしては、放映権をどう設定するか、また、多くのStreamingサイトが個人配信者のプラットフォームを主な収益源としている中で、esportsを放送することは個人配信者の視聴者数に悪影響を与える可能性があることです。

 

以上、簡単に関係者の説明をしてきましたが、書いたこと以外で質問などあればコメントで聞いてください。

esportsを盛り上げる関係者 - その3

今回はesportsで実は最も目立つであろう実況・解説者と最も目立たない大会運営の二つを関係者として紹介したいと思います。

 

実況・解説者

実況・解説者はどのスポーツシーンでもお馴染みなので仕事内容については説明する必要もないと思います。しかしながら、現時点のesportsでは選手よりも放送中の露出が高いため、ファンからの人気も獲得しやすい職種です。

 

実況・解説者のモチベーションとして、よりわかりやすく、より面白くesportsを視聴者に伝えたいという純粋な思いを持つ人が多いです。実況・解説者としてesportsに関わっていくには陰で相当な努力が必要なので、モチベーションをしっかりと持たないと続かない状況です。選手の練習量などは割と話題となりますが、実況・解説者の勉強量はあまり話題にならないです。しかしながら、esportsの主なタイトルは世界レベルで普及しているゲームであり、海外のesportsシーンを勉強しておかないと日本の選手のプレーの説明がつかないので、実際放送に携わっていない時も強豪国でのプロシーンを常に見て勉強しています。

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                                                                                                          Copy right: Morgan Linton

 

実況・解説者のメリットとしては、その露出の高さやチームに属さない中立性からesportsだけでなくゲーム番組やイベントなどでの起用が多くなり、そこからのファンとのつながりを多く持てる点があげられます。一方で、悩める点としては、どのように収入を稼ぎ、継続してパフォーマンスを高めていくかにあると思います。現状ではesportsがまだ勃興期ということもあり、安定した収入を稼ぎだしている実況・解説者はほんの一部にしかすぎません。

 

実況・解説者については起用する側にも悩みは存在します。それは、マス受けする実況・解説者とそのゲームのコミュニティ受けする実況・解説者に乖離がある点です。多くの場合、実況・解説者はコミュニティから支持されているという理由から、そのゲームの配信者などが起用されることが多いです。しかし、彼らはアナウンサーなど喋りのトレーニングを専門に受けたわけではないので、話の仕方や発音などがマス受けするプロのレベルではない人が多いです。それではマス受けするためにプロのアナウンサーや有名人などを持ってきたらいいかというと、そのゲームを本当に理解したうえで喋っていないとコミュニティからの批判が強く出るので、そういったプロの起用もできない。実況・解説者のキャスティングは主催者や大会運営にとっても大きな悩み事です。

 

大会運営

大会運営とはなんでしょうか。大会運営はステージや控室の会場設営からチームへの連絡、試合のモニタリング、ルール違反があった場合への対処など、多岐に渡る業務を行っています。主催者が大会運営を行うケースもありますが、多くの場合外部業者に委託しています。理由としては、労働集約的な業務が多いため、主催者が抱えこむよりもイベント運営会社などに委託するほうが効率がいいためです。

 

大会運営を請け負う業者側のモチベーションは、ビジネスであるが、そこにいるスタッフを見ると「esportsの真摯な大会としての盛り上げに関わりたい」という人が多いです。ビジネスとしては労働集約的であり大きな利幅を得ることは難しいですが、特定esportsタイトルの運営ノウハウが蓄積できると安定したビジネスとなってきます。

 

大会運営側のメリットとしては、現時点ではesportsを運営できる業者が少ないので先行者利得が想定でき、今後esports市場が大きくなってきたときに更なるビジネスの拡大が見込める点くらいです。一方で悩みとしては、人材の定着がなかなか難しいことです。市場の勃興期であり、労働集約的で労働時間や給与などの待遇面での限界があることから、有能な人材が他社からの引き抜きにあいやすい。実際に運営のノウハウを持ち、スタッフを束ねて実行までできる人材は他社からも魅力的です。そういった人材をいかに会社に引き留められるかが大会運営成功の鍵となってきます。

esportsを盛り上げる関係者 - その2

今日は前回に引き続きesportsを盛り上げる関係者として、esportsといえば欠かせないチームと選手の紹介をしたいと思います。

 

チーム

ゲームとしては個人単位で遊べても、esportsへの参加はチーム単位となっていることが多いです。もしくはどこかのチームに所属していることもあります。もとがコミュニティ大会起点のStreet Fighterなどでは個人としての参加が多くを占めますが、Clash Royaleのようなスマホゲームでもクラロワリーグとして2018年にプロリーグを設立しましたが、2017年までの個人で参加する戦いからチーム単位で戦うフォーマットになっています。

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                              Copy right: Spercell

 

またPUBGのようなバトルロワイヤル(最終的に1人が勝ち抜け)でもチーム単位での戦いとなっている。これらのチーム戦重視の理由は、esportsとして戦略性やチームワークといったものを視聴者に届けるためです。また、ゲームにそれを活かす土壌があること(例えばクラロワの協調プレイ)が大きく影響を与えていることも否定できません。

 

チームを運営する側のモチベーションはゲームのプレイヤーに活躍の場を与えたいと思っている人が多いです。また、その流れからesportsを盛り上げたいと思っている運営者も多いです。筆者としてはesportsを盛り上げるというよりも、ファンを大事にすること、チームを強くすること、チームの経営基盤を整えること、の3点に注力することが基本だと思っています。いくつかのチームはこの3点が整いつつあるようですが、多くのチームはまだ道半ばです。運営側(特にオーナー)には二つのタイプの人がいて、ビジネス経験が強いオーナーと、ゲームプレイヤー経験が強いオーナーがいます。ビジネス経験が強いオーナーはファンを大事にすること、および経営基盤を整えることに優れていることが多いです。一方で、ゲームプレイヤー経験が強いオーナーはプロプレイヤーの気質を理解し、メンバーを集めてチームを強くすることに長けていることが多いです。

 

チーム運営のメリットは、参入しているゲームのコミュニティの中での知名度の向上であり、それに伴うスポンサーの獲得です。日本でもいくつかの有名なチームにおいてはすでにビジネスとして成り立っています。

 

悩みとしては、今までチームに属したことのないプロ選手の管理問題や、限られたスタッフで先に挙げた3点すべてに手がなかなか回らないことです。伝統的なスポーツのプロチームでもよく見られるように、運営の資本として富豪や企業からでてくる事例を増やし、それによりスタッフを揃えて上記3点の実行ができる体制を築くことがチーム・選手の安定、ひいてはesportsのリーグの発展につながると思います。

 

選手

選手とは実際に試合に出るメンバーと控え、また大規模なチームでは練習生で構成されています。選手のモチベーションとして、日本ではまだ一攫千金を狙うといった選手はほぼいない状況であり、好きなゲームをとことんやれて相手に勝ち、そのうえでお金がもらえるといったところがあげらます。「好きなゲームを存分にやれる」っていうことですね。esportsのプロリーグは始まった時点では明確にプロを目標にしてきた選手は当然ながら少なく、上手かったからプロとなった選手が多いです。しかし、時を経るとともにプロを目標として上がってきた選手が増えることとなり、モチベーションの差が生まれるケースがあります。当然ながら目的意識が明確な選手の方がプロになってから成長していきます。

 

プロ選手となるメリットとしては、先にあげた好きなゲームをとことん極めることにあります。日本では金銭的に恵まれるケースはまだ少なく、  海外では億円単位での年収を得るプレイヤー(英語)が出てきているものの、日本ではせいぜい千万単位です。これはesportsの大会賞金、スポンサーやプロ選手の配信視聴者の違いに起因しています。千万以上もらえれば十分と思う方もいるかもしれませんが、選手寿命が5-7年程度と限られている中ではトップ選手でも千万単位というのは全体的にみて厳しいのかもしれません。

 

平均的なプロ選手が抱える悩みとしては、収入の低さと、引退後のキャリアです。収入の低さは前述したので、引退後のキャリアについて触れると、現在のesportsの状況では解説者やコーチなどは非常に限られており、また、ゴルフのようなレッスンプロとしてのニーズも少ないために、引退した後に元プロ選手の肩書を活かせるケースが非常に少ないです。多くの場合、就職活動をしていわゆるサラリーマンになります。トップのプロ選手においても、海外では解説・コーチだけでなく配信者として生計を立てる道もありますが、日本ではごく稀なケースです。例えば元プロ選手で現在世界で最も有名な配信者であるNinja氏は月に5000万円以上収入があるといわれている。記事はこちら。

 

さて、昔よくプロゲーマーになりたいけど、どうしたらいいですか?という質問をもらったことがあるので、プロ選手を実際に見ていて感じたことを最後に付け加えておこうと思います。プロ選手として自分を高めていくにはゲームの上手さだけでなくいろいろな要素があるのですが、一つだけ早い時期から意識しておいてほしいことは、

  • コミュニケーション能力を高める

ことです。チームとして活動していればお互いのコミュニケーションは必須ですし、プロ選手としてスポンサーやファンの獲得にもコミュニケーションはとても重要です。実際チーム活動を見ていても選手のコミュニケーション能力が高ければ(練習)試合後のミーティングなども効果的・効率的に行えるので、チームが強くなります。また、スポンサーやファンも「話せる」選手により多くつく傾向があります。プロ選手を目指す方はぜひコミュニケーション能力も磨いておいてください!

esportsを盛り上げる関係者 - その1

前回までで、esportsの説明と歴史的な流れを書いたので、今回からesportsを盛り上げるのに欠かせない関係者としてどのような人達がいるのか、そのモチベーションやメリット、苦悩する点を書いていこうと思う。

 

主催者

主催者としては、現状大きく二つに分かれます。ゲームIPの保有会社とサードバーティの主催者です。

 

ゲームIP保有会社

ゲームIP保有会社とは簡単に言うと、ストリートファイターを持っているカプコンのことです。彼らがesportsをやるモチベーション、それは主に既存顧客の熱狂度合いを高めることです。esportsを行おうとするIPホルダーはそのゲームがある程度以上に流行っていることが大前提となってきますが、esportsによってそのゲームコミュニティがさらに活性化するメリットを享受できます。ゲームによってはコミュニティの活性化が収益に好影響をもたらしてくれます。なぜならコミュニティのコア層を盛り上がらせ、継続してプレイ・課金をしてくれるようなるからです。また、カジュアル層にはゲームプレイの方向性(メタと呼ばれます)が見え、バランス調整があろうとも、顧客のつなぎ止めが可能になるからです。特に、日本でesportsを見るきっかけとしてこの部分は大きく、通常のゲームでの攻略本を参考にする文化が、esportsでプロのプレイを参考にすることにつながっているようです。

 

一方で、苦悩する点としては、大会運営費用の捻出と費用対効果の測定です。今後の関係者でも紹介していきますが、興行としてesportsを行う場合には、それ相応の費用がかかりますが、他のメジャースポーツ(サッカー・野球)のような放映権料やスポンサーなどが獲得できているわけではないので、現状では主催者の持ち出しで行われていることが多いです。

 

サードパーティ

サードパーティとは簡単に言うと、IP保有者以外が行うことですが、こちらでコミュニティ大会以上のしっかりとした運営をしているところは少なく、ゲームの発展がその企業にメリットをもたらす会社が運営していることが多いです。例えば、PCの半導体を販売しているインテルIntel Extreme Mastersという大会を開催しています。また、日本でもAbema TVやOpenRecというメディアをもったサイバーエージェントグループがRAGEという大会を運営しています。最近はShadowverseのプロリーグをRAGEブランドで始めました。これらの企業のモチベーションは、ゲームの発展によって自社製品(例えば半導体)が売れたりすること、また、esportsへの取り組みにより自社メディアへの視聴者の誘導を図っていて、その後にメディアに視聴者が固定化することから生じる収益をメリットとしています。一方で苦悩する点としては、同じく費用の捻出が最大の問題となりますが、費用対効果の点ではその後の製品販売数や視聴者数が彼らのビジネスなので測定は行いやすいです。

 

現状では世界的に見てもゲームIP保有会社が運営するesportsのプロリーグが最も注目されていることが多いです。Riot Gamesが運営するLeague of Legendsのプロリーグおよび世界大会やBlizzardが運営するOverwatchのプロリーグなどがそれにあたります。サードバーティが運営している中での成功モデルとしては韓国のOGN(esports専門のケーブルTV局)が様々なゲームのプロリーグを運営・放送しています。

esportsの歴史

esports(プロシーン)としての発展は2000年代に始まっています。厳密にいうと、アマチュアのゲーム大会はそれ以前から頻繁に開催されていました。古くは1972年にスタンフォード大学でゲーム大会が行われたという記録もあります。

 

2000年代になぜプロシーンとしてのesportsが発展し始めたのか、それはブロードバンドの普及と1997年のアジア経済危機による失業率の高かった若者がゲームに熱中し、その中からプロシーンが韓国で生まれたからです。ちなみにこの時のタイトルはStar Craftです。

 

また2010年くらいから欧米を中心としてesportsの盛り上がりが加速していきました。これはリーマンショックやヨーロッパ経済危機を背景として、失業率の高まりによりやはりゲームに熱中する若者が増え、esports運営団体や大会が生まれてきたのです。英語版Wikipediaのesportsによると2000年に10大会だったのが、2010年には260大会が開催されたそうです。つまり、esportsの盛り上がり・普及には実は不況によって生まれた若者パワーが大きく影響を与えているのです。ちなみにこの2010年以降のesportsの盛り上がりをうまくとらえたのが、MOBAというジャンルで代表的なゲームのDOTA2やLeague of Legendsが上げられます。

 

興味深いのは、例え不況を脱出したとしても、esportsはその後も成長を続けているところです。これは10代から20代の男性に強く支持されているからという点もあるが、筆者の見立てではゲームという自分にとって身近なものがプロシーンとして放送されていることに、伝統的なスポーツやTV番組よりも面白いと感じる層が増えていることが要因であると考えています。伝統的なスポーツは、金銭的な面、保護者の負担の面などで、本当に打ち込めるほどできる人は限られてきています。一方で、ゲームはそういった参入障壁が低く、多くの人が経験するためより身近に感じられるのだと考えます。

 

実際に、NFLの視聴率が低下し、その要因としてesports (online streaming)の影響が指摘されています。原文は英語。以下はその記事からの世代別の表。若い人ほどesportsに流れていることが見てとれます。

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日本でのesportsの今後は

さて、この歴史を踏まえたうえで、日本においてesportsの歴史を振り返って考えると、同じような不況はあったものの(90年代後半の金融不況、08年のリーマンショック)、esportsが他国ほど盛り上がることはありませんでした。この点については普及していたゲームのタイプの違いによることが大きいだろうと思います。海外でesportsの基盤となったタイトルはオンラインPCゲームで、戦略性の高いゲームでした。対して日本ではコンソール(プレステとかWiiとか)がゲームとしては主流であり、パッケージとして販売されたゲームにおいて、最初の回で述べたようなバランス調整を頻繁に行うのは難しく、競技シーンとしてのesportsを成立させるのが難しく、また、ビジネスモデルとしても売り切り型であり、esportsのようなやりこんだプレイヤーをもてはやす施策がIPホルダーからの協力を得ることが難しかったのも一つの要素だと考えられます。

 

しかし、世界的な流れや日本でもスマホゲームを中心としたオンラインゲームの普及、また、パッケージゲームでもアップデートが可能となったことから、日本でも様々な関係者からesportsへの関心が高まっています。実際JeSU(日本eスポーツ連合)に登録されているタイトルを見ると、パズドラやモンストといった過去に大ヒットしたスマホタイトルが入っています。

 

果たしてesportsは定着し盛り上がるのか?2018年の現状では、大卒就職率が98%という状況から韓国や欧米での発展につながる盛り上がりはみえにくいです。むしろ、現在esportsを盛り上げたがっているのは、ゲーム会社や業界の人ではないでしょうか。しかし、本当の意味で日本でesportsが盛り上がるかの答えは2020年代に見えてくると思われます。その理由としては、2020年後の東京オリンピック後に経済が減速すると見込まれていて、その不況の程度と若者の就職率が海外でもあったようにesportsの盛り上がりに影響を与えるからです。若者の失業率が高まるようであれば、esportsの飛躍につながるであろうと思います。一方で、日本は少子高齢化社会から労働者不足が懸念されており、それにより若者の就職率が高いままであれば、esportsの盛り上がりを構成する若者の熱狂は生まれにくいでしょう。

 

このように、esportsの盛り上がりのきっかけは経済状況によるところが多いです。そう聞くと「人の不幸によって盛り上がるのか」と思われるかもしれませんが、経済不況はサイクルとして避けられず、その時に人が持つエネルギーの集約場所として、受け止め場所として、esportsというのがここ2000年代から重要な役割を果たしていると考えられます。また、単に不況は盛り上がりのきっかけに過ぎず、その後も成長していることを考えると、きっかけはともかくとして若者の熱狂を継続的に集められるのがesportsだとも言えます。

 

それでは次回からesportsに携わる関係者の紹介をしていきたいと思います。

esportsってなんだ?

はじめまして、ブログに訪問してくださってありがとうございます。このブログでは最近ちょっと聞かれるようになった、でもまだ馴染みのないesportsの深淵なる世界について徒然なるままに書いていこうと思います(タイトルはあえて新しい宴として新宴としています)。

 

esportsとは?

esportsっていう言葉を最近テレビなどでよく取り上げられるようになりました。関係者のここ数年の努力の成果でもあり、いろいろなゲーム会社がesportsと称したイベントや大会を開くようになってきた。でも、esportsってなんだろう?エレクトロニックスポーツ(Electronic Sports)の略でesportsと呼ぶそうだ。ゲーム大会とは違うのだろうか?

 

結論から言うとゲーム大会です。それじゃ、昔からやってたじゃんと言われそうですが、違いは「プロ」選手の大会の盛り上がりです。esportsと巷でよく盛り上がりを含めて言われているのはこのプロシーンのことです。コミュニティなどで開かれている大会も広い意味ではesportsの範疇だと思いますが、この記事の中ではesports=プロシーンとして書いていきます。

 

じゃあ、プロとアマチュアの大会って何が違うのでしょうか?厳密な区分けは難しいかもしれませんが、一番大きな違いはアマチュアの大会は選手のために、プロの大会はファンのために開かれることだと思います。例えば、プロシーンではステージでスポットライトを浴びながらプレーしますが、あれは選手としてはプレーしやすい環境ではありません(慣れてくると気にならなくなるそうです)。ただし、ファンに見せることを考えればスポットライトは必須です。

 

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                                                                                                                                 Copyright Riot Games Inc

 

大会スケジュールについても、ファンが見やすいように夜遅めの時間が設定されていたりします。このようにプロシーンは魅せることを中心にスケジュール、ステージ、放送がプランされていきます。アマチュアの大会が観客や放送の視聴者に対して魅せる視点が欠けているというわけではなく、何を最重要な要素として持ってくるかだと捉えてください。

 

ゲームがesportsに変わるとき

プロとアマの違いはあることが分かったとして、次に気になるのは数多のゲームの中でesportsとなりうるのはどんなタイトルか?

 

これは非常に難しい分けなのだが、提供する本質的な価値が変わったらesportsとなると考えるといいと思う。

  • ゲームの本質的価値=達成感
  • esportsの本質的価値=共感

 

いきなり、達成感や共感と言われてもイメージが来ないかもしれませんが、自分がやってきたゲームを振り返ると、ゲームは達成感を得ること(与えること)を目的にしていることがわかります。例えばレベルアップ、ステージクリア、ハイスコア、など達成感をどう提供するのかが最重要ファクターでとなっている。

一方でesportsはプロの選手達に対する共感こそが重要です。勝負の世界では当然負けることもでてきます。実際には負けても応援してくれるファンこそがチームとしての資産の基盤なのです。達成感がなくとも共感を感じる一例をあげると、例えば高校野球が分かりやすいのですが、多くの人は選手が涙を流しながら甲子園の砂を集める光景を共感をもって見ているのではないでしょうか。まさに心を打つシーンです。esportsはゲームを使っていますが本質的な価値として視聴者に提供しているのは達成感ではなく共感です。下の写真はesportsタイトルとしても有名なLeague of Legendsの世界大会の決勝戦で敗れたチームが対戦ブースから勝利チームへの祝福を茫然と見ている姿です。右下には泣き崩れている世界最高と言われていた選手が写っています。この写真は決勝戦後の象徴的な写真としてメディアでもよく使われ、多くの人の共感を呼びました。

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それではプレイヤー同士が戦っていて共感を生むゲームとはどんなものでしょうか?それは技の磨きこみ、戦略的な選択、チームワークなどの要素を持つゲームです。逆にesportsに向かない、共感を生みにくいゲームとしては、スーパーパワーがあるキャラを保有していれば勝てるといったタイプは難しいです。この点はゲーム開発側の課題であるのかもしれない。

 

実はこの点が、esportsとなりうるタイトルの二つ目の要件であり、それは絶対的な解のない、バランス調整が必要なゲームとります。先に述べた通り、スーパーパワーを持ったキャラの存在が勝敗を分けてしまうのであれば、その絶対的な解により視聴者が楽しめる息の詰まるような勝負は提供できない。ただし、プロプレイヤーともなれば、ゲームの情報を理解し、開発側が意図していない絶対的な解を見つけるのはお手の物です。そのため、開発側は終わりなきバランス調整をしなくてはならないのです。実際、esportsのタイトルとなっているゲームでは新キャラを出したものの、予想より強すぎるためにプロの競技シーンでは使用不可とすることも頻繁にあります。

 

このようにesportsとなりうるタイトルは、

  1. 技の磨きこみや戦略性、チームワークなどで視聴者に共感を与えられる
  2. 勝敗に絶対的な解のない終わらないバランス調整が行われる

の2点を満たしたゲームとなります。